胸椎と肋骨から構成される胸郭は、人体の骨格の中でも特に重要な部位です。野球選手や、走ることをメインとするスポーツ選手にとっても、胸郭の拡張制限はパフォーマンスを左右すると考えられます。
胸椎は上位(Th1-6)、中位(Th7-10)、下位(Th11-12)に分かれ、上位胸郭は上下に動くのに対し、中・下位胸郭は左右に拡がる動きをします。
しかし、円背姿勢・胸椎後弯増大などにより胸郭の拡張が制限されると、胸椎の可動性は低下。胸椎の可動性低下は腰椎の過剰運動を引き起こし、腰部の負担増大へとつながってしまいます。
左右で対称に拡がる胸郭の動きが失われると、腰椎中間位での後屈が不可能になり、腰椎回旋位での後屈の運動につながってしまいます。このように椎間関節が平行でない状態での運動の繰り返しは、運動分担のバランスが崩れ、局所的なストレス増加を引き起こしてしまうのです。
胸郭のアライメントは、リアライン・コンセプトに基づき下記の表のように「上位胸郭伸展不全」と「下位胸郭横径拡張不全」に分類することができます。さらに、それぞれに対して異なるアプローチで治療を行います。
疼痛動作
前屈時痛+、後屈時痛++、投球動作時痛++(コッキング相)
疼痛部位
L3-5の最長筋、腸肋筋
一般的な評価
SLR問題なし(両側で各45°とハムタイトネス+)、右股関節伸展制限、右肩甲骨前傾・外転位、腹部・腰部過緊張
静的アライメント評価
右下位胸郭拡張性低下
動的アライメント評価
後屈時に右胸郭の拡張不十分⇒右胸郭の拡張の徒手誘導で疼痛減弱(疼痛減弱テスト)
※後屈中の非対象下位胸郭アライメントの評価例
右下位胸郭拡張性低下による胸椎伸展可動性低下と、腰椎過伸展による脊柱起立筋群の筋スパズム
治療後、胸郭の対称な運動が獲得され、投球動作時の疼痛消失。
今回の症例は高校生野球選手であり、スポーツ活動中の疼痛が主訴であった。股関節周囲の柔軟性低下など問題はあったが、評価に基づき、胸郭のリアラインにより動作時の疼痛は消失した。今回の症例のように急激な練習強度の増強、トレーニング量の増大によって胸郭、胸椎の可動性が失われ、腰部痛をきたす症例はしばしばみられる。しかし、そんな症例を前にしたときに腰部へのアプローチのみで十分であろうか。一時は、腰部の筋が緩み、改善したかにみられるかもしれないが、きっとその症例は再発するであろう。今回の症例についても、リリースで痛みをとることはできたが、再発防止には下後鋸筋、ほかトレーニング、また股関節柔軟性向上は必要であろう。
胸郭の拡張制限・胸椎の可動性低下は、腰部への負担を増大させ、腰痛を引き起こすことがあります。この腰痛は胸郭アライメントのゆがみによるものなので、腰部へのアプローチでは根本的な解決ができないことがほとんどです。
クリニカルスポーツ理学療法(CSPT)の「胸郭編」では、胸郭の異常運動の評価から治療までのコンセプト、技術を紹介しています。胸郭の解剖から、腰痛、肩痛との関連を含めた病態、評価、治療を明確に示していきます。
なかなか腰痛が改善しないという患者様がいらっしゃる方に、ぜひ受講していただきたいセミナーです。