~投球肘に見られる肘関節と手関節のスポーツ外傷~
肘関節のスポーツ障害として代表される投球肘。この投球肘を引き起こすメカニズムとして、肩関節や他関節の異常運動やマルアライメントが関与することは珍しくありません。
肘関節は腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節から成ります。そして、遠位で構成される手関節と橈骨、尺骨を共有するため、手関節と肘関節は相互に影響し合います。
運動連鎖の結果、肘関節にストレスが集中して、肘に痛みを生じることになります。このため、痛みを感じたり、動きが鈍くなるような直接の患部は肘関節であっても、その原因を突き止めるためには、全身のあらゆる部位を探索することが求められます。
肘関節疾患として知られる投球肘の問題として、しばしば肘関節の伸展制限が挙げられます。そして、投球肘の治療として肘関節の機能の完全な回復が不可欠です。
しかし、治療の結果、屈曲・伸展制限に加え、肘関節の外反、尺骨内旋や近位橈骨掌側偏位(前腕回外制限)といったマルアライメントが残ることは珍しくありません。これでは完全な機能回復とは言えず、再発リスクを残したままの状態で競技に復帰することになってしまいます。
肘関節に伸展制限と外反変形を伴う場合、しばしば上腕二頭筋・腕橈骨筋・前腕屈筋群タイトネス、上腕筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋筋機能不全が認められます。
リアライン・コンセプトでは、これらをマルアライメントの結果として生じたもの(結果因子)と、マルアライメントの原因因子とを区別して取り扱います。
肘関節伸展制限の原因因子として、腕橈関節の伸展制限の原因となる腕橈骨筋、上腕二頭筋、尺側手根伸筋、そして関節包の癒着に着目します。これらの癒着を順を追ってリリースしていくことで、相互の癒着が解消されます。それにより腕橈関節の完全な伸展が得られ、肘関節の伸展制限とともに外反変形も改善に向かいます。
肘関節(近位橈骨、尺骨)のマルアライメントに伴い、遠位関節である手関節に問題が生じることがあります。そのため、手関節の疾患の治療において、肘関節や前腕の回・内外を含めた橈尺骨のアライメントや可動性の評価が必要となります。
三角線維性軟骨複合体(TFCC)損傷は、手関節の代表的なスポーツ外傷です。三角線維性軟骨複合体(TFCC)損傷を発症するメカニズムには、転倒などによる手関節への外力のほか、橈骨と尺骨のマルアライメントによるストレス集中が挙げられます。このため、三角線維性軟骨複合体(TFCC)損傷の治療には橈尺骨のリアラインが欠かせません。
症状
肘関節内側側副靱帯の炎症、圧痛が認められ、投球動作時に痛みを訴えた。
マルアライメント
肘下がりが認められ、コッキング相からアクセラレーション相での痛みが特に強く出現した。肘関節の他動屈伸でも痛みが誘発された。アライメント評価の結果、橈骨近位の掌側偏位、肘関節の外反アライメント、前腕の回外可動域制限を認めた。
原因因子
橈骨頭を後方へ押し込みつつ伸展させると、痛みの軽減、可動域の向上が認められたため、原因因子として上腕二頭筋・腕橈骨筋・橈側手根伸筋・関節包の滑走不全が挙げられ、結果因子として上腕筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋筋機能不全が認められた。
問題点
橈骨の背側への可動性の改善により、外反アライメントの軽減、肘最終屈曲時の疼痛軽減が得られた。
前腕掌側の皮膚リリースの後、腕橈骨筋周囲の筋間リリースによって回外可動域が改善した。その結果、腕橈関節の完全伸展が得られ、肘関節最終伸展時の疼痛軽減、回外可動域の改善が得られた。
肘関節のリアライン、他部位リアラインと動作修正、筋機能の改善、投球フォームの改善を進めた結果、投球動作での疼痛が解消され、競技復帰可能となった。
投球障害でも出現する肘関節痛であるが、動作の修正、他部位のリアラインと並行して、肘関節の完全な機能回復が不可欠である。肘のマルアライメントや伸展制限は、肘関節周囲の筋群の機能低下や過緊張を招き、再発のリスクの高い状態が続くことになる。これらはパフォーマンス低下を招く可能性もあるため、肘関節の可動域制限とマルアライメントを確実に解決することが求められる。
肘関節を患部とした症例の場合、肩関節や他関節の異常運動も探らなくてはなりません。また、肘関節の疾患が手関節に影響を及ぼすことも少なくないことから、肘関節・手関節疾患の回復には、適切な評価と治療が必要です。
クリニカルスポーツ理学療法(CSPT)の「肘関節・前腕・手関節編」では、肘関節疾患や手関節疾患に対して、適切な評価のもと、組織間リリース(ISR)を用いた治療にて、肘関節の可動域制限とマルアライメントを解決する知識・技術を講習しています。投球肘・野球肘と呼ばれる肘関節疾患から、手関節のスポーツ外傷として知られる三角線維性軟骨複合体(TFCC)損傷に対応できる知識・技術を学んでいただける内容のセミナーです。