骨盤とは、左右一対の寛骨(腸骨+恥骨+坐骨の組合せ)、仙骨、尾骨で構成される骨格のことです。
そして寛骨と仙骨の間には仙腸関節(左右両側に1つずつ)が、恥骨の間には恥骨結合が存在します。
寛骨と仙骨、仙腸関節・恥骨結合により骨盤輪が形成され、この骨盤輪全体の安定性が、体幹の荷重を下肢に伝えるとされています。
この安定性は骨関節・靭帯系、筋・筋膜系、神経系に依存するもので、筋や筋膜の緊張を除く骨の形態、靭帯・関節包などの関節形態による安定化をForm closureと言います。
骨盤アライメントは、前後傾、内外旋、上下方回旋、また3方向の偏位を含めて、6自由度を持ちます。
仙腸関節の可動性は前屈、後屈、片脚立位で1.7-2.2°、0.5-1.3㎜と報告されていますが、屍体解剖では、仙腸関節の移動量が2㎜であったとする研究も存在します。
アライメントの非対称性は周囲筋の緊張を受けて生じやすく、仙骨も左右の仙腸関節の可動性に応じたアライメントを呈します。
骨盤・仙骨アライメントの非対称性が仙腸関節痛に影響すると考えられていますが、仙腸関節痛が腰痛と鑑別されず、見落とされる例も多いと推測されます。
見落とされる原因のひとつに、仙腸関節機能に対する客観的な評価方法が確立していないことが挙げられます。
そのため、仙腸関節痛に対する治療のゴールドスタンダードは、現時点では確立されていないのです。
骨盤の自由度が高いことを踏まえても、その治療方法は1つではなく、共通の評価に基づくパターン化による、治療への道筋作りが必要だと考えられます。
また、仙腸関節痛を引き起こすメカニズムの1つに、上後腸骨棘(PSIS)間の開大によるストレスがあります。上後腸骨棘(PSIS)間が開大する原因として、下記の3つが挙げられます。
これら3つは、複数同時に見られることもあり、それぞれを引き起こす軟部組織の滑走不全は触診によって特定できます。
その滑走性の改善によって上後腸骨棘(PSIS)間を接近させ、仙腸関節の安定性を向上させることができます。
治療後、立位時・後屈時の痛みと、立ち上がった際の痛みは消失した。重量物を持ち上げる際の痛みは残存。
今回の症例はぎっくり腰になったと言って来院されたが、骨盤アライメントの修正により日常生活での痛みの消失が見られた。
重量物の持ち上げでの痛みが残存し、仙腸関節のスタビライザーである大殿筋、腹横筋下部の筋出力向上が今後必要と考えられる。
仙腸関節痛は、骨盤・仙骨アライメントの非対称性により起こることが多いとされていますが、単なる腰痛として見過ごされるケースも少なくありません。そのため、正確な鑑別には骨盤アライメントの正しい評価が重要です。
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