~五十肩や投球障害肩の治療~
肩関節は、肩甲上腕関節、第二肩関節、肩甲胸郭関節の複合体で、複合関節としての運動に異常をきたしやすい特徴があります。広く知られている肩関節疾患には、五十肩、投球障害肩などがあります。
また、同じ肩関節の疾患と言っても症状は様々で、痛みを感じる症状以外にも「肩が挙がらない」「力が入りづらい」など多岐に渡ります。
さらに肩関節疾患の治療は難しいケースが多く見られます。特にスポーツに取り組んでいるアスリートでは、肩関節疾患の発症が体幹(胸郭、脊柱)、股関節の運動にまで影響を及ぼします。ここでは肩甲骨を含めた「肩」に絞って、その問題の本質を探ってみたいと思います。
肩関節疾患には、関節唇損傷、腱板損傷、インピンジメント、腱炎、不安定性、脱臼などがあります。これらに共通するのは、いずれもマルアライメントが関係しているという点です。マルアライメントには、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節、両方のマルアライメントが含まれています。
肩甲骨のマルアライメントは、上腕と肩甲骨の可動割合、いわゆる肩甲上腕リズムを乱します。一方、肩甲上腕関節では、肩甲骨に対して上腕骨頭の位置に異常が生じるマルアライメントがよく起こります。いずれの場合も、関節周囲の筋やその他の軟部組織の癒着が原因となり、さらに筋の機能低下が加わることで、異常運動が定常化してしまいます。
目指すべき理想の肩関節運動は、疾患を問わず共通です。上に挙げたマルアライメントの原因に対して、確実に組織間の癒着を一つずつ解決するためには、組織間リリース(ISR)を用いて、指先で組織間の癒着を同定します。そのうえで、肩甲骨や骨頭のアライメントを崩している癒着を、順を追ってリリースしていきます。
癒着の同定と的確なリリースを進めるうえで必要になるのが、正確な解剖学による理解と適切な触診技術です。解剖学的な理解については、解剖学の教科書に記載されている情報に加え、あらゆる肢位における組織の位置関係を3次元的に理解することが不可欠です。例えば、肩関節150度外転位で腋窩を触診するためには、そのポジションでの腋窩の筋の位置関係をすべて理解し、その状態を透かすように見ながら触診しなければなりません。
症状(結果因子)
現在、炎症症状はみられず、夜間時の痛み、挙上・外転時痛、更衣動作困難を訴えた。可動域はそれぞれ外転70°(それ以上では肩甲骨挙上の代償、痛み+)、挙上100°、水平内転制限(骨頭の後下方滑りの制限)、下垂位、外転位ともに内外旋での疼痛があった。いずれも疼痛部位は三角筋下滑液包、肩峰下滑液包、棘上筋付近であった。特殊テストは可動域制限のため実施困難であった。
アライメント
骨頭前上方偏位、肩甲骨前傾・外転・内旋のアライメントを呈し、特に挙上、外転時には明らかに骨頭上方偏位が認められ、求心位をとることが困難であった。肩甲骨アライメントの修正で疼痛の軽減はあまりされず、骨頭位置不良を改善することが急務。骨頭位置を不良にさせている筋滑走不全を原因因子として考えた。
原因因子
原因因子は骨頭の上方偏位をもたらす原因である。これには、肩甲上腕関節の後下方、腋窩、肩関節前面の筋間の滑走不全が関与していると推測された。また肩峰下滑液包と三角筋との癒着が、骨頭の下制を妨げていると推測された。これらに加えて、腱板筋群の骨頭の求心位保持能力の低下が疑われた。
3回にわたる治療で挙上150°、外転120°まで可能。上腕骨頭と肩甲骨アライメント改善に伴い、当初の滑液包、棘上筋の疼痛軽減が得られた。しかし、結滞動作での痛み、可動域制限が残存しているため、継続して骨頭、肩甲骨アライメント修正を進めるとともに、肩峰下滑液包などの癒着の解消を図る。
五十肩でも投球障害肩でも、アライメントを崩す原因は共通のため、最終的なゴールは異なっても、治療手段、過程は同様です。それぞれの肩の可動域制限、アライメント異常を引き起こす原因を適切に捉えるために、解剖学的な理解・触診技術が問われます。
肩関節疾患は、どの組織に異常があるのかを正確に見つけることが大切です。異常のある組織を特定するためには、触診をはじめ、あらゆるセンサーを使って問題点を調べる必要があります。
クリニカルスポーツ理学療法(CSPT)の「肩関節編」では、肩関節疾患に対して、適切な評価のもと、組織間リリース(ISR)を用いた治療にて、安定した肩甲上腕リズムを再獲得させる知識・技術を講習しています。また、五十肩や投球障害肩などさまざまな肩関節疾患に対応できる知識・技術を学んでいただける内容のセミナーです。